プロのカメラマンと言っても活動する分野によって、状況はかなり違うと思います。私の知っている商業撮影の事情を少しご紹介します。最近は、自分の仕事としては少なくなりましたが、仕事の撮影でしばしばロケ撮影を行っていました。撮影と言っても私が撮るわけではなくプロのカメラマンに依頼するのですが、撮影に関するイメージや見極め、諸々のお膳立てや管理は私の仕事で、カメラマンやスタッフと一緒に考え、撮影隊の苦労を共に体験してきています。
特に服などの商品の撮影では、いろいろアクシデントが起こります。もちろん事前に想定して準備はしていきますが、天候が原因のものは自然相手なのでなかなか困ります。
商業撮影の現場というのは、基本的には企業から依頼を受け、カタログなど何らかの企業の営業活動に使われる写真を撮影する現場です。苦労ポイントをご紹介します。
雨と風
特に春先の撮影だと、心配なのが雨と風です。統計的には3月は3日に一度雨が降るそうですが、季節の変わり目での時期で天候は不安定です。撮影の予備日が設定できる場合は少なく、企業の展示会や営業活動の関係から日にちが固定されてしまうことがほとんどです。
また、ロケ場所を借りる場合がほとんどなので、そちらの段取りや都合もありますし、モデルさんを雇う日程や費用のこともあります。予備日を設定すると費用的にも増大します。
カメラマンの中にも不思議な人がいて、晴れ男だというのです。何も根拠もないのですが、実際その方にカメラをお願いして雨が降ったことがありません。摩訶不思議です(笑)。
急遽プラン変更
一度、ロケ現場に行ったものの雨と風が激しすぎて撮影できず、急遽スタジオカットに切り替えて撮ったことがあります。撮影には、グラフィックデザイナーも同行するので、その時は現場でレイアウトやグラフィックデザインの方向そのものを変更して、印刷物の仕立て自体を変えてしまいました。
雨対策
また、ある時は、スタジオでの振替ができないような内容だったので、雨を想定して、モデルとカメラの間に雨粒が降らないように(雨粒が写ってしまうため)、透明ビニールと物干し竿で移動式のテントを作り、撮影時は4人でそれを持っておくということをしました。シートに雨が溜まって垂れ下がってくるので時々斜めにして、溜まった雨水をジャーと落とすなど、本当に大変な撮影でしたが何とかカタログに使える写真を撮ったのはさすがプロです。今は有名な女優さんになられている方も当時はかけ出しのモデルさんとして来られていましたが、ハードな撮影にも粛々とこなされていました。
雨を取り込む
またある時は、アウトドアウエアの撮影に渓流に行き、テントを設営して実際にそこでBBQをしながらの撮影でしたが後半雨が増えてきて、この時はまさにウエアの撥水効果や雨の中での臨場感あるシーンが撮影できて、雨が効果的に働きました。
風もやっかい
雨が降らなくても、風も厄介です。撮るモノによっては風は大敵です。薄い洋服などは風に煽られてはためくので撮影できませんし、髪の毛も流されて乱れます。風に吹かれない場所を探して撮影するのも限界があります。特に春先などは風の強い日が多く、しかも夏物の薄い服であることが多く、外でのロケには要注意です。
少しの風なら、大判のレフ板を衝立にして風を防いでいました。洋服のロケには、よく畳1畳くらいの大判のレフ板を使っていましたが、風と太陽の方向によってはそれが格好の衝立になって風を防ぐことも。そのために、ロケ場所の設定も、もし風が吹いたらここで撮ろうという建物の影などもプランの中に入れておきます。ですので、ロケハン(下見:ロケハンティングの略)は必須です。余りに風が強くてスタッフが持っていた大判のレフ板ごと飛ばされたこともあります(笑)
暑さ寒さ
ファッションものでは、国内で撮る多くの場合季節が逆になるので、寒い時期に薄い服、暑い時期に厚い服になります。場合によっては、暑さ寒さがモデルさんの顔に出るので、段取り良くとって仕舞わなければなりません。そのためには、ロケハンしてどこでどのカットをどういうポーズで撮るのかまで細かく決め込んで行く場合もあります。
ロケ場所
ロケ場所探しは、なかなか苦労するところです。今でこそ、自治体自身がロケ場所誘致に積極的ですが、昔はそうではありませんでした。ロケの場所は、自分で探す場合もありますが、ロケコーディネーターと呼ばれる仕事をしている人もいたりして、そういう方に依頼したりします。もちろん、その分費用がかかります。ロケ場所というのは、もちろん事前に許可が必要で、商業撮影では勝手に撮影することは許されません。ですので、事前にロケハンや許可のお願いに行きます。
自治体が積極的に貸しだしている以外の公共の場所というのは、商業目的ではなかなか貸してくれなかったりします。それ以外の私物の場所や建物は、その持ち主や責任者のところにお願いに行きますが、費用が必要なところや不要なところなど、事情や考え方の違いで様々です。
かなり有名な建物などでも、クレジットだけ入れると無料で借りれたりしますが、これは、掲載するカタログやその企業などの知名度や配布先その他の状況とその建物のPR戦略との兼ね合いがあったりするのだと思います。貸しだしている公共の建物でも、場所によっては市民優先なので、予約していても市民の利用が発生するとキャンセルになってしまうようなルールのところもあったりします。
撮影隊
商業撮影では、現場によって携わる人数がかなり違ってきます。モデル撮影の場合、最小限では、モデルとカメラマンという場合もあるでしょうが、大概は、それに加えて、カメラマンアシスタント、ヘアメイク、スタイリスト(メイクを兼ねる場合もあり)、アートディレクター、クライアント担当者という最低でも7名くらいの布陣になるので、ロケ場所を貸す側としてはまあまあ迷惑な人数です(笑)なので、そこでの作業にはできるだけ迷惑をかけないよう最大限に気を配ります。いくら費用を払っているからと言っても、頼んで借りている側なので、そこでトラブルが起こるとクライアントの印象にも影響してしまいます。ときどきSNSなどで苦情があがっているのは、それを怠ってしまった場合でしょうね。
一度、現場に駐車してあった車を持ち主に移動してもらったのですが、誤ってぶつけてしまい車が凹んでしまいました。運転していたのは持ち主ですが、こちらの撮影のために移動をお願いしたので、修理代等はすべてこちらが負担しました。こんなことも起こるので撮影費には必ず予備費の項目を入れるように浸ました。
撮影が大がかりになると当然現場に人数も増えるので、待機場所や移動、スケジュール、食事などの手配も大変になります。私の場合は、最大30名くらいの所帯の撮影を行っていましたが、現場だけでなく、撮影スケジュールや移動計画など事前準備にも非常に手間がかかります。
ロケバス
遠方でのロケ撮影の場合は、ロケバスを使って行うことが多いと思います。ロケバスも会社や規模によって様々ですが、ロケ隊が快適に仕事できるようにいろいろ工夫されています。モデルさん達は楽しそうですが、大概モデルやクライアントでいっぱいになり、私はカメラマンの車で移動するので、ロケバスに乗る機会は非常に少なかったです。これは現場によっても違うと思いますが。ロケバスでは、運転手さんから他の現場の話なども聞けて参考になったりします。
食事
食事の手配というのも面倒なことが多いです。少人数だとなんとでもなりますが、人数が多いとまとめて用意しないとやっかいになります。今は、弁当屋さんもたくさんあるのでネットで注文して、出発前にもってきてもらえると思いますが、そういうサービスがなかった頃は、早朝にコンビニなどで買い出しをしてロケバスに積み込んで行ったりしました。
アウトドアウエアの撮影では、事前に仕込んで、現場で本当にBBQをして食べたりもしました。ただ、そういう現場は、時間にゆとりがある場合やモデルさん達はゆっくり食事がとれますが、撮る側は、次のカットや移動の段取りや商品や小物のチェックなど、ゆっくり食事をとっている余裕がない場合も多いです。
費用管理
何が面倒って費用管理が一番面倒だったりします。撮影スタッフやモデルの費用、付帯費用などを事前に見積もりし、クライアントに承認をいただき、撮影後はそれを精算しますが増減した場合、その理由を説明して明確にしなければ納得してもらえません。モデルさんのギャラもケースバイケースで大幅に違います。撮影の規模によっては、総額何百万円〜一千万円台になる場合もあるので、項目も多岐にわたります。つまり商業撮影の場合は、最終的に使う写真何枚、あるいは何十枚のために、これだけの費用がかかるということなので、カメラマンの責任も大きいわけです。失敗など許されません。そのために、機材選択も含めいろいろな対策を採っています。
依頼者への説明
商業撮影では多くの場合、クライアントにいろいろ説明をしなければなりません。どういう風に撮るのか、どんな仕上がりイメージなのか。どんな段取りで行くのかなどなど。何度かお仕事をしているクライアントは、ある程度信頼していただいているので細かいことは説明しませんが、いずれも担当者が上司や社内に説明し納得して予算を承認してもらえることが必要です(多くの場合それらの説明は私の仕事です)。
また、できあがった写真への評価やそれがグラフックデザインになった時にはどうなるのか。できあがったカタログなどが、営業活動で使われるときに写真がどう作用するのかなど、細かく説明するときもあります。商業撮影というのは時にそういう営業マンや販売店の店頭などいろいろなところで写真が見られるので、その場その場の効果を考えて写真のプランを考えます。時には無理難題を工夫して、目的の写真を撮ってくれるのが商業撮影におけるプロカメラマンです。
さらに、撮影中もクライアントやディレクターへの確認も含めて、モニターを置いたりして確認しやすい状況をつくっておかなくてはなりません。こちらとしても後で撮り直しなどになると面倒です(ギャラが出ない場合もありますし)。目的の写真がちゃんと撮れているか、特に商品撮影などでは必要な角度が映っているかなど、しっかり確認してもらえるようにすることが結局自分たちも楽になるわけです。
商業カメラマンとは
以上のような視点で見ると同じ写真を撮るということでも、趣味で撮るのとは別世界です。また、アーチストとして自分の作品として写真を撮るのとも違うでしょう。
いろいろな条件の中で、一度撮れると言った写真は必ず撮らなければならないし、土台無理な撮影は、こういう理由でムリだということもはっきり言えるだけの経験やノウハウが必要です。カメラを始め機材の選択基準もそういう視点から選んでいます。プロカメラマンと言っても、活動をする分野によってかなり事情は違ってきます。


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